需要を予測するといっても、商品のライフサイクルによって、その手法はさまざまです。

一番、需要予測が難しいと言われる市場投入前の見積もり、市場投入直後の微調整(フィッティング)、安定期の既存品モデル、終売決定後など、各フェーズで、活用できる予測モデルは異なります。

今回は、需要予測の手法について、商品のライフサイクル別に、なるべく数式を使わない形で、紹介していきたいと思います。

市場投入前の新商品

市場投入前の新商品は、会社の戦略的に重要であるにもかかわらず、過去に販売実績がないため、需要の見通しは難しくなっています。

このため、新商品の需要予測を精度よく実施できている会社は皆無であり、それだけ需要予測にニーズも高いと考えられます。

ただ、需要予測の手法にも限界があり、どの手法もほとんど使えません。

ここでは、新商品の需要予測について、いくつか紹介していきます。

過去の類似商品を使った調整

当たり前のことですが、新商品には過去の販売実績はありません。

安定期の商品のように、過去実績の平均や前年同月同週の値を代替することができません。

そこで、需要予測担当者もしくは商品マネージャーに、新商品の類似商品を選択してもらいます。

これは、新商品の類似商品の過去実績を調整して新商品の需要予測値とする、一番原始的な手法になります。

ただし、いくつか問題がでてきます。

リニューアル品のように、新商品と過去の類似品目が簡単に紐づくものもあれば、全く見たことのない新商品のケースもあるからです。

前者であれば、この手法は使えますが、後者であれば、「無」から需要予測値を創造するしかありません。

「需要パターン+商品力」での調整

過去実績がないため、パラメータを2つ使って実績パターンを作り出すモデルになります。

1つ目のパラメータは、需要のパターンであり、一気に売れるとか、徐々に売れるとかいうパターンをパラメータ化します。

2つ目のパラメータは、商品力・ボリューム、つまり数量を表しています。

この2つのパラメータを設定することで、新商品の需要予測値とする手法が使われるときがあります。

需要のパターンは事前にいくつか作っておきます。

このときに注意しないといけないのは、パターンはシンプルにしておかないと運用が大変になるということです。

合理的ではありますが、運用を定着化、ユーザーが手法を使いこなすようになるまでにはかなりの時間を要すると思われます。

SNSダッシュボード

SNS(ツイッター等)の情報を活用する新しい手法になります。

事前にテストマーケティング等を行い、使い心地や味などをSNSでつぶやいてもらい、プラスの要素とマイナスの要素と反響の大きさをもって、需要予測値とするやり方です。

重回帰分析や数量化分析をして、完全に自動化することも研究されています。

しかし、ビッグデータを扱う必要があるため、まずはダッシュボードなどで確認しながら、人間が補正しているのが、現実的なところではないでしょうか。

「予測市場」メソッド

予測市場メソッドは、

「みんなの意見は案外正しい」

といった集合知を実用レベルに高め、将来の予測に活用する仕組み・手法のことを指しています。

個人が処理できる能力には限界があり、さまざまな資質や異なる考え方を持つ人々が集まれば、不足分を相互に補い、全体として知識の幅や判断能力が向上するという仮説に基づいています。

「三人寄れば文殊の知恵」

という日本のことわざとほぼ同意で、美人投票に近い考え方になります。

従来の手法

今度発売される新商品は、過去の類似商品もありません。

有識者Aが経験と勘と度胸により500万ケースと予想しました。

大量生産・安定市場であればこの予想でもいいかもしれません。

しかし、この500万ケースは、科学的根拠に基づいていないため、突発的な事象や変動には対応できません。

予測市場(馬券方式)

3人の有識者A、B、Cにそれぞれ2票ずつ与え、予想される売上数量の幅

・X(250万ケースから350万ケース)
・Y(350万ケースから450万ケース)
・Z(450万ケースから550万ケース)

を予測してもらいます。

仮に予想Yが3票で本命となった場合、倍率は6/3で2倍となります。

予想Xが有識者Cの1票しかはいらなかった場合、仮に売上数量が500万ケースとなった場合、有識者Cは6/1で6倍分のポイントを獲得することになります。

ここでは、話を単純化するために、馬券方式のみを紹介しましたが、他にも株価方式やブックメーカー方式があります。

こちらは専門書に委ねることとします。

このように、予測市場は集合知を活用するため、選挙予測や株価予測、競馬予測などの有識者が散財するケースでは有効です。

しかし、地震予測など、有識者すら当てることのできないような集合知化できないものに対しては無効となります。

予測市場は発祥地がアメリカです。

アメリカは大統領選挙や軍事管理、トップダウン経営など、予測市場に適した社会となっています。

それに対し、日本は独特の商慣習に基づき、ギャンブルを嫌い、職人を育てる風土になっています。

このため、予測市場の事例は皆無であり、まだ実用化には至っていない状況です。

市場投入直後の新商品

販売実績が少しずつ出現してくるため、それと事前に作成した需要予測値、過去の類似品目の需要予測値を並べて、微調整する難しいフェーズになります。

新商品の期間は商品やカテゴリーにもよりますが、期間を終えると、既存品の安定期の予測モデルに切り替えなければなりません。

安定期(既存品)

移動平均法

過去のある期間の実績を平均して未来を予測する方法が「移動平均法」です。

例えば、過去3ヶ月の販売実績の平均から、今月の需要を予測するようなモデルになります。

過去のある期間の平均的な数量が将来にも売れるという品目に合う統計予測手法です。

指数平滑法

近い過去の実績をより重視する統計予測手法を「指数平滑法」といいます。

例えば、月バケットで予測する場合、先月と先々月以前では、現在に対する影響度がちがうと考え、先月の影響度を強く受けるような計算をします。

仮に、先月の実績の影響が0.9、先々月の影響が0.1の重みの差があるとします。

すると、今月の販売予測は、先月の実績数に0.9をかけ、先々月の実績に0.1をかけて合算することで、需要予測値を算出します。

季節変動法

季節ごとに、昨年と同じ時期に同じ販売の波が起きる場合には「季節変動法」を使います。

例えば、クリスマス商戦でよく売れる、年度末によく売れるなどの変動性がある場合などです。

過去実績は最低でも3年分はほしいところです。

1年や2年ではサンプル数が少なく、精度に問題が発生します。

また、この手法は休日の変動にも影響を受けるので、過去と今回予測すべき時期のカレンダー上の差異を確認し、予測をそのまま使うか、何らかの補正を入れるかを考えることになります。

季節変動法は、より簡易に計算するために、それぞれ予測するバケットの過去3年をとって波を描く手法を使う場合があります。

一方、実績データから傾向線を延長して引いて、過去の同時期が傾向線からどれほど離れていたかという「季節変動比率」を計算し、傾向線に掛け合わせて波を作る方法があります。

後者の計算方法だと、予測が伸びていくのか、減っていくのかというトレンド(傾向)がモデルに取り込みやすいので、季節傾向モデルと呼ばれることもあります。

ローリングメジアン

例として、過去9週間で考えます。

この場合、9週間の実績を昇順で並び替え、その中央値を予測値として選択するモデルをローリングメジアンといいます。

中央値が2つ存在している場合はその平均値を用います。

このモデルは上位と下位の異常値を取り除くことができるメリットがあります。

回帰分析

シンプルな線形回帰モデルがよく用いられます。

価格を下げると、ボリュームが増えるような関係がある場合に適用されるモデルになります。

米国の大規模量販店では価格による変動が大きいためよく用いられています。

通常の時系列モデルに比べて、異常値の影響を受けやすい特徴があります。

(※)簡易な統計予測の留意点

説明した代表的なモデル以外にも、簡単な手法はいくつかあります。

しかし、実務的にはこの5つくらいを知っておけばよいでしょう。

簡易な統計予測、手法は直感的に理解しやすく、人にも説明しやすいので、業務を標準化し、改善したり、引き継ぎしたりするにはよい手法です。

しかし、モデル精度の問題や、実績のノイズの問題は以前として存在するでしょう。

運用するにあたっては、それなりの手間を覚悟しましょう。

終売決定後

需要予測において、もう1つの特殊なタイミングは「終売時期」です。

終売時期に関しては、「需要予測を行う場合」と「ラストオーダーを取る場合」があります。

需要予測を行う場合には、過去実績をそのまま使ってはいけません。

終売期は通常期とちがい、終売時に向けて、徐々に需要が減衰していく予測をしなければならないからです。

減衰予測は結構難しいので、なかなか当たることはありません。

減衰予測をしても、だらだら作り続けることで、最後に製造終了のための製造オーダーを取って、終売時期までを乗り切るための在庫を積んで終わりになります。

減衰予測は難しいですが、そこは精度を求めず、最後は廃棄か、顧客のオーダーがきても「終売です」と拒絶しなければなりません。

製造業では、この終売や生産終了をきちんと規定できず、いつまでたっても小ロットで作り続け、製造コストをかけているところが多いです。

特に、修理部品や保守部品などで、何十年も維持している製造業もあります。

このあたりはポリシーの問題なので、何が正しいというよりも、企業としての意思の問題になります。

しかし、自社で予測して終売に備え、自社で在庫を保持するのは、在庫リスクを持ち続けることになるので、企業としての判断が必要です。

ケースにもよりますが、原則として、きっちり終売にして、どうしても使い続けたい顧客がいても、新製品への買い替えを推奨するほうがいいように思います。

終売対応としては、ラストオーダーを取る方法もあります。

これらは、購入者側に在庫リスクをもたせる方法で、オーダー(注文)をもらえば、そのぶん作る、オーダーがなければ作らないという方法です。

部品を確保したい発注者側は、しぶしぶラストオーダーを出します。

下手すると、2年分とか、3年分を買うはめにもなることもあります。

もし、顧客側が強ければ、ラストオーダーがラストオーダーにならず、だらだらと小口の注文がきて、製造コストが上がる、ということも多々見かけられます。

終売に関しては、単に製造の問題ではなく、企業の営業活動や顧客サービスとも密接に関連してきます。

どこかの部門が勝手に決めるのではなく、製造と販売の組織が、営業対応と最後の廃棄・買取などの対処法も考え、意思決定していくことが重要です。

しかし、どんな方法をとっても、新製品の需要予測は難しいものです。

どちらかというと、予測の精度は求めずに、予測が外れたときに迅速に増産や減産ができる体制を構築するほうが意味があると思います。

事後予測シミュレーション

需要予測のモデルを検討する場合、まずは過去の販売実績を2年分程度を準備します。

すべての品目でなくても構いませんが、代表的なイメージのわきやすい商品でいいです。

2年分をN年とN+1年だとすると、N年の実績を使って、N+1年の特定モデルの予測を実行します。

すると、N+1年には実績がすでにあるので、重ね合わせると、どのモデルの当てはまりがよいのか、どれだけ当たったのか外れたのか検証をすることが可能になります。

どのシステムを導入するのにかかわらず、予測精度を向上させていくためには、このシミュレーションを定期的に実施していくことが重要です。

予測の評価指標

統計予測を使う企業にとって、統計モデルの予測精度はいつも問題となります。

予測が外れると、需要計画や販売計画がくるい、在庫に過不足が生じ、仕入れや生産計画がくるい、かつ余計な調整や輸送が必要になるからです。

統計予測の精度は、継続的に測定する必要があります。

また、統計モデルを選択するときにも同じ方法で測定・評価し、モデルを選択していきます。

統計予測の精度を測る方法は、主に2つあります。

誤差率(総量の差異)

予測値から実績値を引いて差額をチェックする方法です。

例えば、予測値が50で、実績値が80の場合、+30(=80-50)実績値が外れたことになります。

したがって、予測誤差率は+60%(=30/50)外れたことになります。

この方法は1回の予測を比較するには有効ですが、予測の回数が多い場合、プラス側の誤差とマイナス側の誤差が相殺されて精度が高く見えてしまう欠点があります。

たとえば、50と50の予測値に対して、実績が80と30になった場合、+30の外れと-20の外れになります。

両方を足すと10(=30-20)となり、10/(50+50)=+10%の誤差と計算されます。

外しているにもかかわらず、よい評価となってしまいます。

そこで、次にあげる指標も合わせて評価する必要があります。

絶対誤差率(実績と予測の差異)

この指標は実績値と予測値の差異の絶対値をとります。

上の例では、(30+20)/100=50%の絶対誤差率となります。

なお、例では分母には実績を用いていますが、実務上は実績に対する誤差ではなく、最初に立案した計画に対する誤差ということで、分母は予測値にすることが多いです。

このような指標と見比べながら、統計予測モデルを選択したり、パラメータをいじったりして、適切な式に変えていく作業を「予測のフィッティング」といいます。

例えば、指数平滑法であれば、重み付けをするアルファ値を0.9とすべきか、0.8とすべきかなどを調整していきます。

一般的には短期予測が0.3、長期予測は0.1が妥当だといわれています。

この辺りは統計の専門領域に入ってくるので、統計の本を参照しながら実施することが多いと思われます。

しかし、最近の統計システムは、自動フィッティング機能を持ち合わせているので、その機能を使って省力化することもできるようになっています。

自動フィッティングの中身のロジックはここでは割愛しますが、事後予測シミュレーションの本質が理解できていれば、そう難しくはないと思われます。